『 スプリング・ソナタ 』
サワサワサワ −−−−− ・・・・
その朝 開いた窓から入る風は ほんのり甘さを含んでいた。
「 ・・・ ふ〜〜〜ん ・・・ ああ いい香り・・・ 」
フラソワーズは パジャマのまま大きく息を吸いこんだ。
「 昨日とは全然違うわ ・・・ 春 ・・・? 」
窓から乗りだして 庭へ そして さらにその先へと視線を飛ばす。
「 あ ・・・ 水仙の蕾が開きそう♪ チューリップは
ああ まだ顔をだしたばかり ね 何色が咲くのかなあ〜
あら 垣根の樹もぽちぽち緑がみえる〜〜 」
ちょいと背伸びをすれば 庭のその先の水平線は 彼女の胸元の高さとなる。
目を凝らせば 海を越えて 湾の反対側の斜面も望むことができる。
「 う〜〜ん 海の色もすこし明るくなってきた ・・・かな?
あ ! あっちの岸にも黄色の花!
うわ〜〜 春 なのね ・・・ ! ブラヴォ〜〜 」
パジャマのまま 彼女はくるり、と回転した。
ふわり・・・と揺れる金色の髪を 早春の風が撫でてゆく。
「 ステキ! ねえ まだ2月よね?
この国の春は 本当に早いのね ・・・ そうだわ! 」
ぱふん、と彼女はベッドに腰を下ろした。
「 日曜日だもの ・・・ 今日は春を探しに行こうかな〜
そうよ そうよ あの軽いダウン・コートが丁度いいわ。 」
ぽん、と今度はベッドから飛び出す。
「 そうね 春を迎えにゆきましょう。
軽いコートで。 ブーツを脱いで今年初めてのパンプスで♪
・・・ ああ わくわくしてきたわ 」
ふんふんふ〜〜〜ん♪ ハナウタまじりにクローゼットに飛び込んだ。
「 ん〜 美味しい朝食じゃった。 ご馳走様 」
ギルモア博士は 食卓で満足のため息をついた。
「 まあ 嬉しい〜 あのお口に合いました? 」
「 うん うん ・・・ 君は料理が得意なのだねえ 」
「 え ・・・ いえ 全然・・・
自分が食べたいなあ って思うモノを作ってるだけで
ふふふ 今朝だって オムレツ に チーズ・トースト
それにグリーンサラダ って 料理とはいえないかも 」
「 いやいや オムレツは絶品だよ。
確かにここの卵や野菜は 本当に美味しいなあ 」
「 そうですよねえ あのね あの海岸通り沿いのお店・・・
マルシェみたいになっていますでしょ?
あそこの食材は どれもとっても美味しいです 」
「 ふむふむ・・・ ワシも散歩ついでに覗いてこよう
なかなか楽しい地域じゃな 」
「 ええ。 あ ちょっと買い物ついでにお散歩してきます。
なにか 買うモノ あります? 」
「 あ〜〜 ワシも昼過ぎに歩いてみるよ 天気もよいし・・・
時にアイツはどうした? 」
「 ・・・あ〜 まだ 寝てます 」
「 寝てる?? ったく〜〜〜 何時だと ! 」
「 なんかね〜 朝ご飯はいらないのですって 」
「 ほう こんな美味い朝食を・・・ 勿体ないことだ 」
「 いちおう トーストとサラダは冷蔵庫に入れてありますけど 」
「 いらない と言ったのだろう? 必要ないぞ。
それはワシが昼にいただくから 」
「 あら ・・・ お昼は別に作りますけど 」
「 よいよい ゆっくり外出しておいで。 」
「 ありがとうございます。 あ オレンジを剥いておきますね
あと お好きなチーズも 」
「 ありがとうよ。 ヨコハマまで出てみるか?
ああ 予算は大丈夫かい。 」
「 十分ですわ ありがとうございます。 」
「 のんびり ・・・ お日様を遊んでおいで 」
「 はい。 」
朝の食卓は ほんわりした空気が流れていた。
ハムとチーズのサンドイッチ。 ミニ・トマトとセロリ・スティック
オレンジをひとつ タッパーには苺 ― 全部バスケットに詰めて。
ミニ・ポッドには 熱々のカフェ・オ・レ を口きりいっぱい。
「 ちょっと ピクニックにいってきますね〜〜 」
「 ああ 行っておいで。 あ 帽子を忘れるなよ
なんだか陽射しが強そうじゃ 」
「 あ・・・ いっけない〜〜 」
ピケの帽子をかぶり バスケットを持つ。
「 いってきまあ〜す 」
カタカタカタ ・・・ 彼女の足取りは軽い。
( ・・・ ジョーは まだ起きてこない )
邸の前 急な坂道も今朝はとても楽しい。
「 わあ〜〜 ここにもタンポポ! こっち側にも〜〜
あら このカワイイ空色の花は なにかしら・・・ 」
「 風が 柔らかいわ ・・・ うん 春が来るのね ・・・
なんて 優しいお日様かしら ・・・ う〜ん
まだ二月よ? 信じられな〜〜〜い ・・・ 」
両手を バスケットを持ったまま 空にのばし 海にのばし
ふんふんふ〜〜ん ♪
フランソワ―ズは踊るみたいに歩いてゆく。
「 あ そうだわ! 卵屋さんの卵!
午前中に買っておかないと 売り切れちゃうのよね〜〜
うん この時間ならきっと大丈夫。 」
フランソワーズの足取りはますます軽く ・・・ 海岸通りに出た。
公道を渡り商店街に入る。
道の両側に大小さまざま・・・いろいろな種類の店が軒を連ねている。
「 八百屋さん 肉屋さん。 えっと お鍋とか売ってるのは
なに屋さんなのかなあ あ お菓子屋さん♪ お花屋さん
・・・ う〜〜ん いっぱいあるわあ〜〜
駅の向うにある大型のスーパーもすごいな〜って思うけど
わたし ここが好きだわあ あ 卵 卵〜〜
えっと ・・・ お肉屋さんは・・・っと 」
ぷらぷら商店街を行けば 顔見知りのヒトともすれ違う。
「 あ おはよ〜ございます〜〜 」
「 おう おはよう 金髪嬢さん 」
「 あらら おはよう〜〜 岬のお嬢さん 」
店舗前を掃除してるヒト達にも 挨拶と笑顔を振り撒いてゆく。
< 岬の金髪さん > は もうここでは有名なのだ。
「 おはよ〜ございまあす。 美味しい卵、 まだあります? 」
まず大きな日除けを広げている店にはいった。
精肉店で 片隅には卵も扱っている。
「 おう おはよう 金髪さん。 ああ あるよ〜 」
「 よかった! えっと6個ください 」
「 はいよっ コッコ養鶏場の卵は 評判がいいねえ〜
いつもお昼前には完売だもの 」
「 本当に美味しいですよねえ〜 」
「 ファンが多くてね ・・・ はいよ、気を付けて 」
「 はい ありがとうございます。
あ 帰りにお肉を買いますね〜〜 」
「 お ありがと 金髪さん。 とっておくよ?
注文 どうぞ 」
「 わあ ありがとうございます。 ポークとチキン ・・・
これと・・・ これ 1キロづつおねがいします 」
「 コレと コレか よっしゃあ 帰りに寄っておくれ
」
「 はあい お願いします 」
卵のケースをバスケットの一番上に置き 上から布巾をかける。
「 さて ・・・と。 コッコ養鶏場 に寄らなくちゃ。
<美味しい卵> 本当は1ダース 欲しいのよね〜
でも この町の皆も好きだから 独り占めはちょっとね?
あとは直接買いにゆくわ 」
商店街の途中から 山側にはいる小路を上ってゆく。
左右にはまだ枯草が目立つが すぐに養鶏場の赤い屋根がみえてくる。
こ〜〜〜っこっこ ! こけっこ〜〜
元気のよい声が聞こえてきた。
「 うふ・・・ 鶏さんたち、元気なのね〜 」
コッコ〜〜〜 コケッ 〜〜 !
少し開けた場所に出ると 雄鶏が一羽 じっと此方を見ている。
「 あ〜〜 コッコさ〜〜ん ぼんじゅ〜〜る 」
コッコ?? 立派な鶏冠をゆらし 彼はゆっくりと近づいてきた。
「 コッコさ〜ん まだ 卵 ありますか?
ウチの家族はみ〜んな コッコさんちの卵が大好きなの 」
コケッコ 〜〜〜〜 ! 雄鶏は大きく声を上げた。
「 あら! 岬の〜〜 いらっしゃいませ。
コッコさんの声がするから どなたかと思いました 」
鶏舎の中から 作業着にイチゴ模様の三角巾をした若い女性が出てきた。
「 あ タナカさ〜ん こんにちは!
あのう コッコさんの卵 がもっと欲しくて・・・
まだありますか 」
「 こんにちは ええ 少しですけど まだありますよ〜
茶色母さんの卵が ね 」
「 わあ 嬉しい〜〜 ねえ こちらの卵は本当に美味しいです 」
「 ありがとうございまあす。 ちょっとお待ちくださいね〜〜 」
タナカさんは 長靴をぼこぼこ鳴らし 鶏舎に戻っていった。
ここは 張大人が贔屓にしている養鶏場。
この料理人は ひょんなことからここの卵の素晴らしさを知り
特別契約を結び仕入れている。
以来、張々湖飯店の 天津丼 や ふうようはい の味はぐんとあがり
ますます 行列のできる飯店 になってきた。
― なにせ・・・
養鶏場主の タナカ氏が拘りまくった自然環境での飼育なのだ。
鶏たちは 広い庭を自由に闊歩し草をついばみ清潔な鶏舎で寝起きする。
タナカ氏の方針と 美味しい卵 に感動した < 岬の家の人々 > は
全面的に応援をしている。
卵の購入だけではない。 ドルフィン号の廃材を利用し鶏舎を補強、
天井近く換気扇を多く設置 広々した鶏舎では天候に関らず鶏達が飛ぶ!
高い部分の止まり木には 雄鶏が鎮座し毎朝 時の声 を上げる。
周囲に人家はないので 苦情などどこからも来ない。
そんな環境で生まれる卵は ― 美味しくないわけ ない。
「 はい。 あのこれしかなくて・・・ごめんなさいね 」
タナカ氏の奥さんは 両手に持ってきた卵を渡してくれた。
「 わあ ありがとうございます ほっんと美味しくて・・・
あ コッコさん どうもありがとう 」
足元にず〜〜っといる雄鶏に フランソワーズはちゃんと挨拶をする。
コッ コ〜〜〜 コケッ !
「 どういたしまして・・・って。
お嬢さんは コッコさんのお気に入りですから 」
「 まあ 嬉しい♪ わたし 魅惑的な雌鶏かしら〜〜 」
「 ふふふ ええ とっても。 」
「 ウチに帰って自慢します〜 ありがとうございましたァ 」
「 いいえぇ こちらこそ いつもごひいきに ・・・ 」
「 そのイチゴ模様の三角巾 お似合いです〜〜
あ これね ウチの温室で採れたイチゴなんです。
粒は小さいけど 甘いの。 オヤツにどうぞ 」
「 まあ〜〜 ありがとうございます 」
ピンクのタッパーを渡し 手を振り合って別れた。
「 ふんふんふ〜〜ん♪ 卵 卵 美味しい卵〜〜〜 」
フランソワーズは 追加の卵をそっとバスケットいれた。
「 ん〜〜〜 これでいいわ。
ああ お日様 ぽかぽかね・・・ もう少し山側に上ってみよっか 」
養鶏場の横、ほとんど道はなかったけれど
枯草の間を ガサガサ・・・分けて進んだ。
少し登ると 若葉がぽちぽち出てきた雑木林となり空き地もあった。
「 ・・・ わあ〜〜 ここ すてき !
ここで ランチにしましょ 」
早春の空気を満喫し ― 枯草に小さなレジャー・シートを広げ
ぽん、と寝転がった。
「 あ ・・・ お日様〜〜〜 あったかい ・・・ 」
うす水色の空を眺めているうちに つい うとうとしてしまった。
― 不意に ・・・ 陽が陰った。
「 お嬢さん? 危ないですよ 」
うす〜〜く開けた視界に 茶髪が入た。
「 ! ・・・ 邪魔しないでください。 」
「 これは失礼しました。 でも こんなトコで寝てるなんて
お嬢さんのすることではないです。 」
「 ・・・ お寝坊さんに言われたくありません。 」
「 そのお寝坊さんは 腹ペコなんです〜〜〜
ぼくの朝ご飯は なくなっていました ( 泣 )
なにも食べていません〜〜〜 」
「 今朝のご飯のメニュウは チーズ・トーストにオムレツ
ウチの温室の野菜サラダ でした。 あと カフェ・オ・レ。
大変美味しかったです 」
「 う〜〜〜〜 ねえ ぼく マジ腹ペコなんだあ〜
ちょっとブランチに付き合ってくださ〜〜い 」
「 ・・・ いいけど。 わたし ピクニック・ランチ を
持ってます 1人分ですけど? 」
「 いいよぉ 美味しいミルクやジェラート 食べよう! 」
「 ?? そんなお店 商店街にあった?
<牛乳屋> さんにジェラート・・・ ないわよね? 」
「 あ 違うんだ。 ちょっとイイとこ 見つけて ・・・
ご一緒していただけませんか お嬢さん 」
「 ・・・ アヤシイわね 」
「 ! 怪しくなんかありません。
ぼくはぁ〜 へいわの戦士 ぜろ ぜろ ないん〜♪ です 」
「 ふふふ ・・・ じゃ 行きましょ。 どこ? 」
「 ありがと! この先なんだ 」
「 !? この ・・・ 先? って山の中?? 」
「 そんなトコさ あ そのバスケット 持つよ 」
「 あ コッコ屋さんの美味しい卵が 入ってるの〜〜
気をつけて〜〜 」
「 わは♪ 卵かけご飯で 食べたい〜 」
「 オヤツにどうぞ 」
「 うす! 予約〜〜〜 です 」
「 美味しい卵 は 一人一日一個かぎり ですからね
たまごかけごはん にしたヒトにはオムレツはナシです 」
「 ・・・ う〜〜〜 なんと無慈悲な ・・・ 」
「 選択の自由はありますよ? 」
「 う〜〜〜〜 き 決められない・・・ 」
笑いあいつつ 二人は山道を登ってゆく。
「 ねえ ・・・ この先にお店があるの?? ジェラート屋・・・? 」
「 あ もうちょっとだよ うん そこの椿の樹がある茂みを
周ると さ 」
「 ? ・・・ あ あら。 わあ〜〜〜 」
山道は急に広くなり 視界もず〜〜〜〜んと開けてきた。
も〜〜〜 も〜〜〜〜〜〜
「 え? な なに・・ え もしかして・・・牛?? 」
「 ぴんぽん。 へえ フラン、きみ 牛の声 わかるんだ? 」
「 ・・・TVで見ただけデス。 あ でも ウソぉ〜〜〜 」
「 ウソじゃありませ〜〜ん ここは 牧場 です 」
「 え〜〜〜 コッコ養鶏場の上に 牧場があったの?? 」
「 ウン。 ほら ・・・ あれ。 」
「 まあ 」
ジョーが指す先には 木製の看板ががっちりと大地に立っていた。
海のみえる牧場
「 へ え・・・ ねえ どうやってみつけたの? 」
「 あ ・・・ うん。 ぼくじゃないんだ、見つけたの。 」
「 え。 ・・・ もしか して。 うわ〜〜 イヤな予感★ 」
「 当たり。 空から見つけたんだってさ 」
「 !!! また〜〜〜〜〜!!! ダメだって言ってるのに!
ここいら辺は ベースやら駐屯地やらで レーダー網 びっしり、
なのよ!! 」
「 ん ・・・ もう何十回も言ったんだけどさあ ・・・
へ〜き へ〜き。 誰もヒトが空飛ぶ なんて思ってね〜よ って 」
「 そりゃそうだけど ・・・ もう〜〜 」
無謀かつヤンチャな赤毛の仲間に 二人はため息・吐息。
「 ま ・・・ でもさ そのお蔭でこの牧場、見つけたよ。
若いヒトがやってるんだ 入ろうよ 」
「 いいけど ・・・ へえ〜〜 トウキョウの近くに牧場ねえ・・・
考えてもみなかったわ 」
「 あ それ 誤解〜〜 神奈川県は牛乳の生産量は北海道の次 なんだぜ 」
「 え。 うっそ〜〜〜〜 」
「 ホント。 ぼくはこれでも県民デス。小学校の社会科でまなびました。 」
「 へ え・・・ あ 可愛い牛舎〜〜 」
「 こんにちは〜〜〜〜〜〜 」
「 ・・・ こんにちは・・・ 」
ジョーは バスケットを持ったまま フランソワーズの肩にさりげなく
手を回した。
「 お邪魔しまあす 」
海のみえる牧場 の主は 養鶏場の主とあまり変わらない年頃の男性だった。
「 お。 ジョー君。 いらっしゃい 」
「 サトウさ〜〜ん こんにちは。 新鮮な牛乳、飲ませてください 」
「 おう 勿論。 お こちらは ・・・? 」
サトウ氏は ジョーの側の金髪美女に目を止めた。
「 あ・・・ フランソワーズ さ ん。 あのう ・・・
あ え〜と。 か 家族です 」
「 はあん? お。 嫁さんかい? うわあ〜 」
「 え あ その まだ ・・・ 」
「 ふうん? キレイなヒトだねえ
この前の赤毛の兄さんといい ジョーさんはいい家族もちだね 」
「 あ は そ〜ですかあ 」
「 こんにちは フランソワーズです。 うふふ ありがとうございます。 」
「 うわあ 日本語 上手ですねえ 」
「 ずっとこちらで暮らすので 勉強中です。
あの ・・・ ここの牧場の経営者さん ですか? 」
「 あ そうなんです。 経営者っていうか〜〜
嫁さんと一緒に 牛たちとなんとかやってますよ 」
「 すご〜〜い〜〜〜 」
「 ねえねえ サトウさん。 牛さん達に会わせてくださいよう 」
「 おっと さあ どうぞ。 牧場の中に簡単な休み処があります。 」
「 フラン 行こうよ。 」
「 ええ ・・・ なんか ・・・ 夢みたいな場所だわ
わ〜〜〜 向うに牛さんがいる〜〜 」
「 ははは これでも牧場ですから ・・・ 放牧してあります。 」
「 すご ・・・ 」
ジョーとフランソワーズは 山の中腹にある小さな牧場へ
わくわくしつつ入っていった。
「 ・・・ ん〜〜〜〜〜 おっいし〜〜〜〜 ! 」
「 ん はあ〜〜〜 最高! 」
コン コトン。 空のグラスがテーブルに置かれた。
小さな喫茶スペースで < も〜も〜ミルク > という
この牧場の搾りたての牛乳を味わった。
「 ふふふ お口に合いましたか 」
サトウ氏の奥さんは にこにこ・・・ 二人のグラスに
お代わりを注いでくれた。
「 はい! こんな美味しいミルク 初めて・・・ ! 」
「 ん〜〜〜 これミルクですか? クリームみたいだ〜 」
「 気に入ってくださって嬉しいです。 」
「 ね! このミルク、どこで購入できますか?
毎朝 飲みたい! 」
「 そうだよねえ 元気のモトだよね!
うん ジェットもさ アメリカまで送れ! なんて言ってたよ 」
「 ・・・ あ まだ流通に乗せてないんです 」
「 え! どうしてですか?? お店に並べたら即 完売ですよ? 」
「 なにか お考えがあるのですか? 」
「 これは主人と二人でいろいろ考えているのですが ―
私達は このミルクを本当に好んでくださる方に
飲んでいただきたいんです。 」
「 こうやって ― ここまで買いにきてくれるお客さんに
売っているんですよ 」
後から入ってきたサトウ氏は 穏やかに笑っている。
「 そうなんですか。 毎日買いにきます!
あの・・この下にある養鶏場に卵を買いにきますから 一緒に 」
「 あ それ ぼくが買いにきます。 お願いします 」
「 うふふ ・・・ 仲がいいですのね♪ 」
「 あ うへ ・・・は はい! 」
ジョーが真っ赤になりつつも 珍しくはっきりと答えた。
「 そうだわ ジェラート! くださ〜い
あのう・・・ ここの牧場のすみっこでランチしてもいいですか? 」
「 どうぞ どうぞ ジェラート、今 持ってきますね 」
「 あ も〜も〜ミルク もお願いします 」
「 ほいよ。 でも ジョー君はどうやってウチを見つけたのかい 」
タナカ氏は 面白そう〜〜にこのカップルを眺めている。
「 あ 空から見て 」
ちょっと! ドン。 ジョーの脇腹に鋭い肘テツ!
「 ( う・・ ) あう 」
「 ? 空から? ・・・ あ〜 ドローン とかかい 」
「 ! そ そ そうです〜〜 あのう トモダチが
ほら この前来た赤毛のヤツが飛ばして・・・
その〜〜シュミでこの辺り 観察してて・・・ 」
「 なるほどね〜 ここはもともとウチの祖父さんが
やっていた牧場だったんだ。 廃業してしまってずっと荒地だった 」
「 まあ ・・・ 」
「 俺は昔 祖父さんに飲ませてもらった牛乳の味が忘れられなくて
・・・ なんとかもう一度 って。
ウチのヤツも是非!って背中 押してくれて 」
「 うふふ 私ね これでも獣医なんですよ。
牧場で仕事するの、夢でしたから ・・・ 付いてきちゃった 」
「 わあ〜〜 お幸せですのね 」
「 二人三脚で なんとか…ッてトコです 」
ね? と 若い経営者夫妻は笑い合う。
「 すごいですね〜〜 この辺りって養鶏場やら牧場やら・・・
皆さん すごいやあ 」
「 ホント! あのね わたし達、この下の養鶏場も
大ファンなんですよ 卵 最高〜〜〜 」
「 いやあ〜 それは嬉しいなあ
身内としては ぜひぜひ贔屓にしてやってください 」
「 え ・・・ 」
「 あの ですね〜 」
サトウ氏の奥さんが にこにこ・・・ 教えてくれた。
コッコ養鶏場のタナカ氏の奥さんは 牧場主・サトウ氏の妹だったのだ。
「「 うわ〜 いいですねえ〜 」」
「 うん。 一人だと不安なことも多いけど ― 二人なら 出来る。
二人なら なんとかなるんだ。 」
「 牛さん達もいますしね 」
「 ・・・ そっかあ〜〜 」
「 ・・・ 羨ましいデス 」
君達も頑張れよ・・・と 励まされ ジョーとフランソワーズは
赤い顔をしつつ 外に出た。
「 ・・・ あ あ〜〜 ほら あそこ!
柵の側 草地になってるから ・・・ あそこで食べようよ 」
「 そ そうね ・・・ 」
牧場のすみっこの草の上に 二人で座った。
「 えへ・・・ お待ちかねの〜〜 弁当〜〜 」
「 ふふふ あ でもねえ 一人分しかないのよ 」
「 いいよぉ ほら も〜も〜ミルク と ヨーグルト あるし。」
「 ジェラート 先に食べる? 」
「 あ そうだね ・・・ うっわ うま〜〜 」
「 ん〜〜 おいし♪ 困るわあ〜 太っちゃう〜 」
「 ・・・ 太っても魅力的さ ・・・ 」
「 え なあに 」
「 なんでもなあい っと。 さあ 弁当〜〜〜 」
ジョーが運んできたバスケットから ピクニック・ランチを出し
二人で広げた。
「 ・・・ ん〜〜〜 このサンドイッチ うま〜〜〜 」
「 ねえ サラダにヨーグルト、掛けるとさっいこ〜〜 」
「 ん〜〜 ホントだあ 」
「 うわあ〜〜 カフェ・オ・レ の ミルク割り って
うわ〜〜〜 クセになりそう〜〜〜 」
「 んと〜〜・・・ はあ〜〜 牛さんに感謝、だね 」
「 ほんと・・・! 」
牧場の隅っこで のんびり草を食む牛さん達を眺めつつ
こちらものんびりとランチを味わう。
足元には若緑の草が勢いよく伸び始め 頭上にはスズメやらメジロ
シジュウカラ など小鳥たちが歌う。
「 はあ ・・・ なんか 最高・・・ ! 」
「 そうだね ・・ 気持ちいい〜 」
「 ね? ・・・ あ 四つ葉のクローバー みっけ(^^♪ 」
フランソワーズは 足元の草の中から摘みとった。
「 イイコト ありそう〜 」
「 ― あ〜 ヨコハマ 行ってみる? 」
「 え ・・・ いいわねえ〜 あ・・・
でも わたし。 地元を散歩するつもりだったから
ほとんど普段着なのよ 」
「 え 可愛いじゃん? 」
「 ・・でも ・・・ お気に入りの服、着たいわ
・・・ そのう ・・・ ジョーと一緒に出掛けるなら・・・ 」
「 ( うは〜〜〜 ) ・・・じ じゃ ヨコハマで買おうか 」
「 え?? 」
「 買い物、付き合うから さ。 あ ぼくのジャケットも選んでくれる? 」
「 おっけ〜〜〜〜♪
あ でもダメよ。 美味しい卵 買ってるし。
さっきねお肉屋さんでお願いしたの、帰りに引き取らないと ・・・ 」
「 う〜〜ん ・・・ そっか〜〜
あの味の誘惑には 勝てない ・・・かも。 」
「 ね? せっかくの新鮮で美味しい卵とお肉 でしょ。
あ それに今日は も〜も〜ミルク もあるのよ 」
「 だ ね〜〜〜 ミルクと卵で なにかお菓子、できる? 」
「 プリン! あと・・・ カスタード・クリーム かな 」
「 カスタード・・って しゅーくりーむに入ってる、あの薄い黄色の? 」
「 そ〜そ〜。 アレなら作れるわ あ シロツメクサ〜〜 」
フランソワーズは 少し移動して白い小さな花を摘みはじめた。
「 ・・・ かっわいいなあ ・・・
一緒にいたいな ・・・ ずっと ・・・ 」
「 ? なあに〜〜 ジョー? 」
「 あ ・・・ ううん なんでもなあい〜〜
プリンとカスタード・クリーム・・・どっちにしようかなあ〜 って 」
「 うふふ 両方作りマス
だから ・・・ お出かけは明日でも いい? 」
「 ― 賛成〜〜〜〜 」
「 メルシ〜〜〜 はい ジョー 」
「 ?? う ひゃ? 」
すぽ。 シロツメクサの冠が 茶髪にはまった。
「 花冠の王子サマ〜〜♪ 」
「 だひゃ〜〜 へえ〜〜 花で作ったんだ? 」
「 ええ 編んだのよ。 この花で 」
彼女は2〜3輪のシロツメクサを 差し出した。
「 ふうん 茎が長いんだね ・・・ じゃあ 」
「 ? 」
彼は くるり、と花径を回しリングにした。
「 ・・・ あの。 ぼくと ・・・付き合ってくれます か 」
「 え 」
「 タナカさんちや サトウさんちみたく ・・・ 一緒にいたいなって
そのう ・・・ ずっと・・・ 」
「 わたし ・・・ 003 よ? 」
「 ぼくは 009 だ。 それでも いいかな 」
「 ! 」
こくん。 金色のアタマが頷いてくれた。
「 わほ♪ じゃ ・・・ 今はこれで 」
す。 彼女の指にシロツメクサの指輪が揺れた。
「 次の休みの日に ― ホントの指輪を 」
「 ううん。 わたし これがいい。 これが 好き。 」
「 あ は ぼく も。 」
ピ −−−−−− ぴちゅぴちゅぴちゅ ・・・・
ヒバリが高く鳴いて 天に舞い上ってゆく。
も〜〜 も〜〜〜 コケッコ 〜〜〜〜
牧場には 牛さんたちが 下の養鶏場では 鶏さんたちが
二人の第一歩を の〜んびり祝福してくれている。
そんな 早春の 穏やかな 一日 ・・・・
ジョーとフランソワーズの スプリング・ソナタ
************************ Fin.
***********************
Last updated : 04,06,2021.
index
************** ひと言 *********
なんてことない春の小話 ・・・・
2月の末から3月初め かな ( 例年の、ね )
この93、 原作 旧 新 平 RE どれでも
それなりに当てはまる かも (*^_^*)
( コゼロ と 超銀 は 無理っぽ ★ )